中央アジアの中心に位置し、地域のすべての国と国境を接するウズベキスタンは、その地理的優位性を活かして、近隣諸国のみならず、東アジアと南アジア、中東とコーカサスおよびヨーロッパを結ぶ持続可能な輸送ネットワークの要としての役割を強化しています。
中央アジアおよびコーカサス地域では現在、経済発展が加速しており、それに伴い輸送インフラの近代化と多様化の必要性が高まっています。また、紅海や東ヨーロッパにおける地政学的緊張の高まりを背景に、安全かつ安定的で、相互利益のある輸送回廊の整備が急務となっています。
このような文脈の中で、「中央回廊(ミドル・コリドー)」として知られるトランス・カスピ海国際輸送回廊は、世界的な注目を集めており、中国、中東、中央アジア、ヨーロッパを結ぶ有望な代替ルートとしての形成が進められています。
ウズベキスタンは、既存ルートの整備と新規ルートの開発を通じて、欧州連合(EU)との緊密な協力関係を築いています。同国は、多国間複合輸送回廊「CASCA+(アジア太平洋地域-中国-キルギス-ウズベキスタン-トルクメニスタン-アゼルバイジャン-グルジア-トルコ-ヨーロッパ)」の枠組みにも参加しており、トランス・カスピ海ルートの発展を推進しています。
2019年12月には、ウズベキスタンの首都タシュケントにおいて、アゼルバイジャン、ジョージア(グルジア)、キルギス、トルクメニスタン、ウズベキスタンの鉄道当局による5者間プロトコルが締結されました。2021年12月にはトルコもこれに加わり、6カ国間協定として強化されました。この合意には、割引運賃制度の策定、貨物輸送条件の統一、各国の輸送責任会社の指定、国境での事前通知システム導入、積み替え地点における物流センターの整備などが含まれています。
複数のルートの中で、中国-キルギス-ウズベキスタン-トルクメニスタン-アゼルバイジャン-ジョージア-トルコ-ヨーロッパを結ぶルートは、総距離4,917kmと、中国からヨーロッパを結ぶ陸路としては最短の経路です。
2023年6月、キルギスで開催された中央アジア・EU首脳会議において、ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領は、中央アジアとヨーロッパの連結性強化、とりわけ中央回廊の発展の重要性を強調しました。その成果として、カスピ海を経由したウズベキスタンとヨーロッパ間の貨物輸送量は、2020年の49万2,000トンから2024年には110万トンへと、55%増加しました。
また、2024年のウズベキスタンとEU、トルコ、コーカサス諸国、米国、ブラジルとの国際貨物取引量は280万トンに達し、今後の輸送ルートとしての発展性を示しています。さらに、2025年にはカスピ海での自国船による輸送能力を強化すべく、貨物船2隻の導入を検討しています。EUの「グローバル・ゲートウェイ」戦略の枠組みにおいても、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、南コーカサス諸国、トルコとともに連携が進められています。
一方で、中央回廊は依然としていくつかの課題を抱えています。配送期間の長さ、コストの高さ、カスピ海および黒海における港湾機能の低さ、カスピ海の水位低下などが、その競争力を制限する要因となっています。アゼルバイジャンのアリャト港では、悪天候の影響により国際貨物車両の滞留が発生し、平均で25~30日の待機が報告されています。
2024年上半期のデータによると、北回廊(中国-ヨーロッパ)を利用したコンテナ列車の輸送には平均7日を要し、コストは3,289米ドルでした。一方で、中央回廊を経由するタシュケント発の輸送は、所要日数が35~40日、費用は5,500米ドル(Transgroup Systems LP)と、コスト・時間両面で不利な状況です。
しかしながら、中央回廊は中長期的に見て、アジアとヨーロッパ間の貿易を変革し得る大きな可能性を秘めています。その実現には、既存課題の解決に加え、EUおよび国際金融機関による積極的な投資(トルクメンバシ、クルィク、アクタウ、アリャト、ポティ、バトゥミなどの港湾、ならびにキルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージアなど沿線国の輸送インフラ)が不可欠です。
さらに、輸送ルートの多様化と競争力強化を目的に、ウズベキスタンは新たな回廊として「中国-キルギス-ウズベキスタン-トルクメニスタン-イラン-トルコ(5,430km)」の整備も進めています。このルートは、鉄道インフラが整備されており、中国(カシュガル)からトルコ(イスタンブール港)までを鉄道で一貫輸送できる点が特長です。イスタンブール港から先は、ヨーロッパおよび黒海沿岸諸国への輸送が可能です。
この取り組みの一環として、2023年11月1日には経済協力機構(ECO)会合の場において、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコの運輸大臣が当該回廊の発展に関するプロトコルに署名しました。これには、各国における鉄道輸送事業者の指定、試験輸送の実施、割引運賃の提供などが盛り込まれています。現在、中国、キルギス、タジキスタンの参加も働きかけられています。
加えて、「世紀のプロジェクト」とも称される「中国-キルギス-ウズベキスタン鉄道」の建設計画も進行中であり、このルートの完成により中国-ヨーロッパ間の輸送距離は900km短縮され、所要日数も7~8日短縮される見込みです。
複数の輸送回廊を整備することにより、ウズベキスタンと欧州との間の連結性が強化され、貿易量の増加、経済指標の向上、ひいては国民生活の質の向上に繋がると期待されています。
— サイダカモル・スルトンベコフ
ウズベキスタン共和国運輸省付属 輸送・物流問題研究センター 主任研究員